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「地域通貨」って何だ?


 それはミヒャエル・エンデの警鐘からはじまった

 「お金」をめぐって引き起こされる社会不安、雇用問題、貧富の差、環境破壊、戦争など、現代から未来につづくさまざまな問題に警鐘を鳴らし、「お金を根本から問い直す」ことを提唱したのは、経済学者でも財界人でもなく、ひとりの芸術家でした。『モモ』『はてしない物語』などで著名なドイツのファンタジー作家、ミヒャエル・エンデです。エンデは晩年、「パンを買うお金と、株などに投資するお金は同じではない」と指摘し、「利子」というもともと社会になかったお金を請求することの矛盾、成長を否応なく強制される現在のお金のシステムはいずれ破綻すること、いつまでも価値が減ることのない、何にでも交換できる現在の「お金」は「神」のような存在になってしまっていることなどを解き明かしながら、「お金のシステムは人間が考え出したものなのだから、変えることができる」と訴えました。NHKで放送された番組「エンデの遺言」は大きな波紋を呼びました。もちろんエンデだけではありません。さまざまな分野の人々が同じような思いを共有し、持続可能で、自分たちの労働やつくりだすものやサービスに見合ったお金のシステムを模索しています。

 そのひとつの試みが、いま世界中で拡がりつつある「地域通貨」なのです。

 地域通貨が生み出す
 人と人とのつながり合い

 「地域通貨」は、特に目新しいものでは有りません。19世紀からヨーロッパを中心に何度か試みがあり、第一次世界大戦後の大恐慌の時代には欧米で多くの試みが成功しています。その後、80年代頃から世界市場に翻弄されるいまのお金のシステムに疑問を持った人たちのあいだで見直され、現在世界中で3000種近い地域通貨が、日本でも現在300種類ほどの地域通貨があるといわれています。

 「地域通貨」(エコ・マネー、フリー・マネーなどと言われることもある)といっても、あるひとつの決まったシステムがあるわけではなく、それぞれの地域、それぞれの運営主体によってさまざまな種類があります。地域通貨設立の目的(過疎地の地域振興、第三世界の失業対策やホームレス支援、商店街の活性化、ニュータウンでの新たなコミュニケーションづくりなど)によってもいろいろな運用の仕方があるようです。

 共通しているのは、(1)利子が付かないこと。したがって貯蓄しても意味がないこと。(2)あくまでも自分がつくりだすものやサービスを他人と交換のためのツールであること。(3)世界経済に翻弄されず、地域やコミュニティのなかでの持続可能な経済を目指していること。(4)通常通貨(円など)との換金はできないこと、などです。「お金」の形態も、お札や硬貨のようなものを発行する「クーポン券型」、メンバーがそれぞれ通帳をもつ「通帳型」、サービスやものの提供を受けた者が借用手形を発行する「借用手形型」、そしてそれぞれを組み合わせたものなど、さまざま。

●●●「お金」コラム●●●

○金本位制と固定相場制

 お金には最初は貝殻や装飾品、次いで金・銀・銅などの貴金属が使われた。つまりそれ自体が価値あるものだった。やがてそれ自体は価値をもたない紙幣が流通するようになったが、紙幣は銀行に持っていけば金などに換えることができた。価値の裏付けがあったのだ。金によって裏付けられた貨幣制度を「金本位制」という。ところが1972年、ニクソン米大統領は「金本位制」を廃止することを宣言、同時に各国の通貨の価値は為替市場の相場によって決まる「変動相場制」に移行した。現在、世界中で流通しているお金は実際の財やサービスの裏付けをもっているのではなく、市場の相場、つまり投資家がその国の通貨を信用するかどうかによって価値が決まっている。

○シルビオ・ゲゼルと「減価するお金」

 自然界のあらゆるものは、時間が経つにつれ腐ったり、劣化したりする。ドイツの〈忘れられた〉経済学者・社会活動家シルビオ・ゲゼルは、お金だけがいつまでも腐らないで価値を保ち続けることが、お金を持っている者と必要としている者の間に権力関係をつくりだし、利子を取ることを正当化し、お金持ちが「貯蓄」することがお金の流通を阻害することを発見した。彼は、お金も他のあらゆる財と同じように時とともに価値が減っていく「減価するお金」を提唱した。1930年代の世界大恐慌の時代に、ゲゼルの理論に従ってオーストリアのヴェルグルやドイツのシュヴァーネンキルヘンで、実際に月ごとに価値が減っていく「地域通貨」が発行され、みんながそれをいち早く(価値が少なくなる前に)使おうとしたため、新たな取引が生まれ、新たな雇用を生み出し、税収があがり、実際に発行した額の何倍もの経済効果を発揮して、大恐慌の時代に、完全雇用や地域インフラの整備などを達成した。しかしめざましい効果があったにもかかわらず「貨幣は国家が発行するもの」という理由でこれらの地域通貨はやがて禁止された。

 オモチャのお金?

 地域通貨はお金なのでしょうか。「お金」は、そもそも物々交換で始まった人と人との「交易」をもっと便利にするために考え出されました。つまり、私たちの生活をより豊かにするための道具だったはずです。それがいつの間にか、お金そのものを売り買いするようになり、利子が利子を生む構造が考え出され、世界規模で売り買いされるお金は、実際の労働やものやサービスの対価とはかけ離れたものとなってしまいました。地域通貨は、「お金」が本来持っていた、信頼とおもいやりに基づいてお互いができること、持っているものを交換し合うという機能を、自分たちの手に取り戻すための道具として注目されているのです。

 課題がないわけではもちろんありません。この「オモチャの銀行」のようなお金を人々が信用するかどうか、商店の参加や行政のサポートがあるかどうかによって波及効果が大きく変わってくること、事務局運営をボランタリーでやっていくことの難しさ、そして普及していけばいったで、この「経済行為」は課税対象になるかどうかが問われることになるでしょう。

 それでもこのささやかなブームが世界中でさまざまな形で拡がっているのは、お金に使われるのではなく、人々がお金を使う主体であることを取り戻し、人々の関係や地域の環境を良くするために役立つと期待されているからでしょう。

 とにかく体験してみよう

 いろいろ説明を聞くより、どんなものなのかいちど使ってみるのが一番です。住んでいる地域にもうすでに地域通貨があるなら、それに参加してみましょう。住んでいる地域でなくても参加できるものもあります。「WAT(ワット)」や「ナマケ」のように地域を限定しないものや、インターネット上で取引ができる「Slow」のようなものもあります。でも地域のつながりを充実させたいのなら、やっぱり地元の地域通貨に参加したいもの。あなたができることと、してほしいことを公開し、誰かが連絡してくるかあなたが誰かに連絡をすれば、取引がはじまります。どんどん使ってみましょう。いろいろと問題点も出てくるかもしれませんが、みんなでシステムを変えていけるのも地域通貨のいいところ。

 もし住んでいる地域に地域通貨がなかったら、仲間をつのって自分でつくっちゃいましょう。

●●●「お金」コラム●●●

○「利子」が生み出す「椅子取りゲーム」

 お金だけが、いつまでも価値を失わず、いつでも何とでも交換できる。このお金だけがもつ便利さのために、お金をもっている人が一時的にそれを手放すことに「利子」を請求することが正当化される。しかし「利子」は、社会に対して何もつくりださないにもかかわらず、請求だけされるので、返す側は、誰かから奪ってそれを返さなくてはならない。その結果、世の中にはいつでもお金が足りないことになる。つまり、私たちはいつも足りない椅子を奪い合う「椅子取りゲーム」をさせられることになる。

 たとえ借金をしていなくても、商品には利子の分が値段に含まれるので、結局利子を払わされていることになる。

 実は世界の主な宗教であるキリスト教、イスラム教、仏教では、利子を取ることを禁じている。貸したお金に利子を取ることが当たり前になったのは、ほんのここ数百年のことなのだ。

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