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ナノハナのゆううつ



 ナノハナという植物がある。ナノハナの蕾は春先になるとスーパーにも並び、おひたしやゴマ和え、マヨネーズ和えなどにすると、歯ごたえと独特の苦みがあってとてもおいしい。春限定の代表的な味覚のひとつだ。また春先に河原や野原を一面まっ黄色に染める美しい花でもある。

 ところで、ナノハナは、言うまでもなく「菜の花」である。「菜」というのは、「食べられる葉っぱ」ぐらいの意味だろう。「菜っ葉」という言い方がそれを裏づけている。つまり、菜の花とは「食べられる葉っぱの花」ということになる。もっと正確に言えば「食べられる葉っぱをつける植物の、これまた食べられる花」になるだろうか。なんだ、そのまんまやんか。

 さて、ナノハナは分類学上「アブラナ科」に属する。ダイコンやキャベツなど、代表的な野菜の多くがこのアブラナ科に属している。アブラナとはもちろん「油菜」で、つまり「油のとれる菜」だ。この科の植物の種から油が採取できることからこの名前があるのだろう。またしてもそのまんま、である。

 そしてとどめは、その油だ。ナノハナの種から採れる油のことを、「ナタネ油」という。そう、なんてわかりやすいんでしょう。明快すぎるぐらい。「菜の種から採れる油」である。

 かくしてこのかわいそうな植物は、自分の名前にいつでも自分の名前の別の呼び方が含まれているということになる。別の言い方をすれば、この植物には独自の名前がない。この植物全体を表すとすれば、この植物の名前は「ナ」である。しかし「菜」はサラダ菜、小松菜、京菜、おいしい菜など、食べられる葉っぱ一般を指す言葉だから、やっぱりこの植物オリジナルの名前はないことになる。あえてつけるとすれば、「ナナシナ」ということになるだろうか。

 「ジュウニヒトエ」とか「ミヤコワスレ」なんて風雅な名前の花もあるというのに、こちらはただの「ナ」、しかもそれさえオリジナルの名前ですらない。もっとも親しみのある植物で、食用にもなっているのに、この扱いはあまりにも手抜きじゃないかと思うが、そんなことにはお構いなしに、このきれいな花は、毎年春の訪れを告げてくれる。



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